第1章

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サラッと俺を誘って来た。 サークルの合宿では、みんなでコテージに泊まりながら天体観測したり、語り合ったり、酒盛りして騒いだり、楽しかったのは覚えている。 OBOGも居るならば、懐かしさから行ってみたいとも思った。 その時期はちょうど会社の夏休みに当たる。 「多分休みだろうし楽しそうだけど、辞めとくわ」 「なんで?」 「うーん。まだ色々勇気でない」 「?」 涼太は俺の答えの理由を知らない為、首を傾げる。 そのサークルは、俺と咲子が出会った所。 合宿に使うコテージは、俺たちにとっては大事な場所だった。 あの合宿をきっかけに、俺たちは付き合い始めた。 当然、当時のサークル仲間は俺たちが付き合い始めたのも知っているし、応援して貰っていた。 そして、親友だったあいつも、同じサークルだ。 そんな所に、まだ足を踏み入れる勇気がない。 咲子とあいつが来るかもしれない所に、俺はまだ行けない。 咲子と別れてから、好きだった観測ももう辞めてしまった。 今はまだ、好きな事を心から楽しめる自信が無い。 「なぁ、休み中も家には帰って来ないの?」 涼太が俺の背中に聞く。 「同棲解消したんだから、もう帰って来ても良いんじゃない?」 それも、何とかしなければならなかった。 同棲が両親にバレた時、俺は大喧嘩した。 咲子とずっと一緒に居たい、そんな強い意志のもと、結婚が決まるまで実家の敷居は跨がないと決めていた。 でも、それもなくなった。 「…余計に帰れないだろうが」 意志を貫けなかった俺は、実家の敷居を跨ぐ事はもう許されないだろう。 俺自身、そんな中途半端な状態が許せなかった。 「とにかく、涼太は俺の事は良いからな。心配すんな」 それから、俺たちは無言で歩き続けた。 最寄り駅まで着くと、俺は涼太に声をかけた。 「気をつけて帰れよ。ちゃんと合宿仕切って来い。みんなに宜しくな」 「兄貴、」 「あと、次来る時は必ず連絡しろよ?ちゃんと話は聞くから」 じゃあな、と肩を叩き、そのまま踵を返して走り出す。 あいつは、俺の事を好きだと言った。 でも、それは勘違いだと思う。 ただ、俺がたった1人の兄弟だから。 家族の愛を勘違いしてる。 愛されて生きて来たからこそ、愛する事を知らない。 あいつには幸せになって欲しいと、兄としては願っている。 俺の生き方に、お前は巻き込めない。
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