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「よし、終わった!」
「お疲れ」
仕上げた企画書を保存し、パソコンを閉じる。
「…そういや涼太、お前何しに来たんだ?学校帰りだろ?」
時刻は間もなく11時になろうとしている。
俺の家は実家から遠くはないが、駅2つ分離れている。田舎の駅2つ分は歩いて帰れる距離じゃない。
「終電は…間に合わないから、タクシー呼んでやるよ」
「良いよ、明日は開校記念日で休みだし」
「大学にもあんのか、そんなの」
立ち上がって電話を掛けようとした俺の手を掴み、涼太は引き留める。
「母さんが心配するだろ」
「大丈夫。兄貴のとこ泊まるって言ってきたから」
涼太の言葉に、何か引っ掛かりを覚えた。仲の良い兄弟ならば有りがちな会話の中に違和感が生じる。
俺は今、何か大変な事を忘れている気がする。
離された手がゆっくりと下ろされるのを見た後、そのままの足で冷蔵庫に向かう。
「就活はもうしてんのかよ?今年は就職難だって話だぞ」
「気が早いよ兄貴、まだ3年になったばっか」
「でも早いに越したことはないだろ?」
「大丈夫。俺、そういうのは抜かりないから」
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