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『ただいまー』
玄関から誰かが帰ってきた音がする。父は会社、母はパート。よって、この時期昼時に帰ってくるやつなんて暇な義務教育の学生しかいない。
『…あれ、兄貴寝てんの?』
ソファーに転がる俺に気付き、涼太はそっと除き込む。
まだ寝てた訳ではないが、起きるのが億劫であった為、俺はそのまま寝た振りを決め込む。
『しゃーねぇな…』
一旦ソファーから離れたと思ったら、毛布をもって再び俺の傍らに立ち掛けてくれた。
素晴らしき我が弟よ。気が利くじゃないか。
『あーぁ、幸せそうな顔して』
気の利く弟だが、ソファーの横に座り込んで気配が離れようとしない。それどころか、俺の顔をじっと見つめてくる。目を閉じていてもわかる位に視線が刺さる。不意に手が伸びてきて俺の頬を掠めるように涼太が触れる。正直くすぐったい。
前言撤回。頼む、このまま俺を眠らせてくれ。
『受験お疲れさん。これでやっと俺も本気出せる』
その瞬間頬に触れた、優しく柔らかな感触。
『好きだよ、和樹』
頭が混乱している。
俺は今、涼太にキスされたのか?
『覚悟してね、兄貴』
そう言って立ち上がり、涼太はソファーから離れて自室に向かう。
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