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僕は久志に伝わらないように、表に出ませんようにと祈りながら、背中を伸ばして久志を睨み付ける。
「勇、もしかして、好きなやつ出来たことないの?」
「はぁ?」
「ガキだねー」
久志の顔が離れていき、高らかに笑い出す。
取っ替え引っ替え彼女を変えている久志は、まだ本当の恋を知らない。しかし、自分は恋をしているのだと勘違いしているのだ。
そんな久志に振り回される僕も、まだガキなのは同じ。僕も、本気の恋かどうかは未だに判断し難いものがある。
だが、少なくとも僕は、彼女が欲しいってだけで動いているわけではない。
「ガキにガキって言われたくない」
「何だと?」
「久志の付き合い方は、所詮恋愛ごっこにしかなってないよ。本当に好きな人と付き合ったら?経験だけあれば良いわけじゃないじゃん」
突然語りだした僕に、久志はあんぐりと口を開けてこちらを見ている。
「…好きなやつも居ないお前に言われたくない」
「いるよ」
「え」
「居るよ、好きなやつくらい」
言ってしまってからすぐに後悔した。
しょんぼりしていた久志の目が、光輝いたのが見えた。
「…え?何それ!?誰?」
「ウザい、近付くな」
「えー、教えてよ、誰?協力すっからさ」
「嫌だ」
久志に教えたときが、俺達が終わる瞬間だ。
「お前には絶対に教えない」
「…えー」
「それ以上追及したら友達やめるからね」
「…わかった」
曖昧な顔をしつつも、久志はしっかりと返事をする。
まぁ久志以外にも教えるつもりは全くないが。
幸い、明日からは夏休み。
毎日会うことはないから、この話を蒸し返される心配は少ない。
これは、僕の気持ちが醒めない限り一生抱えていく問題なのだ。
真夏の空の下、並木道をゆっくり並んで歩きながら、僕と久志は再び進路について考え始めた。
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