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『ただいまー、いってきまーす』
『ゆーちゃん!待ってってば!』
ランドセルを玄関に投げ捨てて、踵を返して歩き出した僕の後ろから明るい声が追い掛けてくる。
『…やだよ!これからひさしと遊ぶんだから、なおはついてこないでよ!』
『なんでよー』
『男同士の遊びに女は不要なんだ!』
『…何カッコつけてるの?ゆーちゃん変なのー』
『うるさいなっ』
尚に追い付かれないように、僕は全力疾走で久志との待ち合わせ場所であるいつもの公園に向かう。
僕は小学3年生にして人生初めて、家族が増えるという貴重な体験をした。
それは僕にとっては突然の出来事だった。
『勇、ちょっと会わせたい人がいるんだけど』
母がこう言ったのは、つい先週のことであった。
『会わせたい人?これからかけがわさんとなおに会うんでしょ?』
『うん、そうなんだけどね』
『なおと遊ぶの久しぶり!楽しみだなぁ』
『そうだね』
母が言いにくそうに言葉を濁す。いつもと雰囲気が違う母の様子にも気付かず、僕はわくわくしていた。
掛川さんは、母が働いている会社の上司で、家族ぐるみでとても仲良く付き合っている。
最近では、遊ぶ回数が頻繁に増えてきていた。母と掛川さんは、仲の良い友達なんだとずっと思ってて、なおと遊ぶのも好きだった僕は特に何も気にしていなかった。
母と掛川さんの関係が、友達でなくなったのに気付かなかった。
『勇くん、僕ね、君のお母さんと勇くんと一緒に暮らしたいんだ。勇くんのお父さんになりたい』
『…つまり、お母さんと結婚したいってこと?』
今はレストランでお昼ご飯の真っ最中。
僕は、熱々のハンバーグを頬張りながら掛川さんの話を聞いていた。
『君たちを必ず幸せにするから』
必死な掛川さんと、掛川さんを見る母の顔がとても印象的だった。
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