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「一月と七月は」
しんしんと降る雪の音さえ聞こえてきそうな静寂に、凛とした声が漣を立てた。
冬の空気の震えを十分に吟味するように、彼女は続ける。
「音も字面も似ているのに、一番遠い季節ですね」
その言葉は誰にも届くことなく、呆気なく溶けてしまった。
あの夏に置いてきてしまった私の彦星。もう二度と会うことのない人。
悲しいなどといった感情は分からなかったが、今、私達の間には天の川よりも深い淵が暗く横たわっている。それは変えようのない事実だった。
栞を捲ってみた。その裏面はまっさらだった。
彼女は筆を執り、そして、置いた。栞はまっさらなままだった。
「今更、短冊なんか書いても遅いよね」
窓の外、雪は勢いを増して降り積もり、遠い夏の日を静かに覆い隠そうとしていた。
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