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ひっきりなしに響くキーボードを叩く音と
繰り返されるコピー機の機械音を忘れさせるほどの爽やかな声が営業部第二課に澄み渡った。
「原田せんぱ~い!
急ぎだって言ってた注文書来てました!」
その声の主は柚木 波留(ゆずき はる)。
私の5年下の後輩であり、私が教育係をつとめている教え子でもある。
柚木くんはキラキラとした瞳を輝かせ、右手に注文書をヒラヒラさせながら、
一目散に私のもとへ向かって来る。
(お、戻ってきた。
可愛いうちのワンコが……)
光に当たると透けてしまう程、透明感のある明るい茶色のサラサラの髪が歩く度に揺れている。
そして、生まれながらに身につけているのではと思えるようなアイドルスマイルを周囲に、
おそらく無意識にばらまいていた。
柚木くんは気付いてないかもしれないけど、
彼がこの笑顔を見せる度に営業事務の女子達は仕事の手を止め、
彼の笑顔に魅入られ、
砂漠の中のオアシスのような安らぎと癒しを与えてもらっている。
(そして、私もその一人なんだけどね)
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