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どんなに美しい顔の造形をしていても、どんなに麗しい笑顔を向けられようとも、それを持つ者が変態だとすべてが台無しになると笠市(かさいち)豊姫(とよき)は十四の秋に知った。
「さあ豊姫、パパと一緒に風呂に入ろうか。」
豊姫の前に跪(ひざまづ)き育児書片手に悪びれもせずのたまうのはカタルカ・ディスリという豊姫を拉致、いや保護した黒髪黒目の美麗な悪魔だ。もちろん彼と豊姫とは一切血は繋がっていない。
彼女の実父は彼女の魂を対価に悪魔を何匹も喚び出していたらしい。カタルカはそれらの悪魔たちが彼女を殺すのを阻止すべく豊姫を彼の城へ連れて来た。
「無理無理無理無理、無理ですから!!」
豊姫は半泣きになりながら首を振り、壁に助けを求めんばかりの勢いでへばりつく。
カタルカとは豊姫が幼い頃に会った。カタルカが言うには豊姫が彼にパパになってと言ったらしい。豊姫は全く覚えていないのだが。
「どうして? ほら、ここにも書いてあるだろう? 父親の育児への参加は推奨されている。風呂に入れるのは父親の仕事なんだろう?」
「それはたぶん幼稚園、もしくは小学生低学年までだと思います!」
カタルカは炎煉獄の王だ。とても忙しいらしいが、暇を見つけては育児書片手に彼女の元にやってきた。彼は豊姫の父親になるべく努力しているのだが、今のところそれは全く実っていなかった。
豊姫としては放って置いてくれるのが一番良いのだが、残念な事にそれはカタルカにはうまく伝わらない。
「王様、豊姫が怯えてますからやめてあげてください。」
「雅(みやび)ちゃん!」
半泣きの豊姫が嬉しそうな声をあげた。人の世で鳥越(とりごえ)雅と名乗っていた少女の出現にようやく豊姫は落ち着きを取り戻した。ちなみに魔界での名はミスリル・ウォルランという。
「なぜだ。私はちゃんと向こうの育児書を参考にしている。」
「いえ、十四といえばあちらでは既に赤子ではありませんから。」
「十四年しか生きていない者など赤子だろう?」
カタルカは数千年生きている悪魔だ。十四年しか生きていない豊姫は赤子に見えるらしい。
ミスリルがいる時は止めてくれるから良いのだが、二人になると彼が親子としてやってみたいことを攻められる。
「さあ豊姫、パパと風呂で親子の親睦を深めようじゃないか。」
はっきり言って豊姫にはカタルカが変態にしか見えなかった。
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