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黒いローブに身を包んだ勇者がいた。
「最近勇者の様子がおかしいのよ」
鋼鉄の弓と、筒に多くの矢を携えたエルフがそういった。
「いや、正直。仕事に支障出てないし、いいんじゃにゃいか?」
鉤の付いたグローブを手入れしながら獣人が意見した。
「意気は消沈しえど、志は変わらぬ。」
珍妙で逞しい形をした木材に、壮麗な珠玉を飾った杖を抱きしめた有翼人が同意した。
「欝だ」
ここ数ヶ月、近道の為に森の中を直進して都市に向かっていた一行。
食べるもの、飲めるもの全てをその自然からいただき。風呂は当然、衣服の洗浄や交換もしていない。
消耗品は減るばかりで、予定していたものの物資が底を尽きかけている。
「なんで、このパーティは女ばっかりなの」
痺れを切らした勇者が本音と愚痴の混ざり合ったどす黒い言葉を吐露する。
周りを見渡せど、メスしか居ない。
「いや、あなたについていくと言って、ついてきたのが私達なんだから。あなた自身がそういう人ばかり集めてしまう人間なのかもよ?」
うんうんと頷く獣人と有翼人が同意している様をみせつける。
「はあ、ヒロインにヒロイン。どうしてこうなっちゃったかなぁ。」
呆れる勇者に呆れる一行だが、勇者がこういう人間だと知っているので、抜ける奴はいない。
かといって、この女子女子したムードに入ってこれる男の人種など、当然ながら却下などうしようもない女勇者の一行である。
「風呂入りたい。暖かいメシが喰いたい。ベットで寝たい。」
ぶつぶつと呟くが、欲しいものは足を止めては手に入らないそこにある。
「我等向かうたのが一月前程。目的地迄そう在らぬ。」
有翼人はその羽と足を交互に疲れさせている為、全身での疲労度は同程度でも、部位での疲労度は余り蓄積されていない。
つまり、一番涼しい顔である。
「堕天しろ」
悪態をつく勇者ではあるが、その時に言い切って何やら足を止めた。
有翼人は一瞬の恍惚とした表情から、振り返った勇者には真顔を見せる。
「あんた、私を抱きかかえて飛んでよ。」
素で、そんなむちゃな。と呟く有翼人は小天・中天・大天と格付けされている「大天」のエリートだが、自転車の後部に他人を乗せるように、有翼人の基本として重心の変動にかなり左右されやすい。
森の中で私を乗せて自転車を漕げと言われている様なもので、無茶だ。
最悪、翼が枝や何かで傷つけられる。
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