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次の日
音楽室の鍵を開けるのは色川の仕事だ.。
いつもより早く音楽室へ向かった色川は音楽室の鍵を開けると荷物をいつものように教室の端に投げ置き、物置の部屋の鍵を握りしめ足早に向かった。
カチャン
軽い音がして鍵がはずれ色川は何故だか周りを気にし、キョロキョロしながら物置に入って行った。
「なんか僕自身悪いことしてるみたいじゃん…」
とボソッと呟きながら棚に隠すように置いた木箱を探す。
「あった」
木箱を見つけるとまた辺りをキョロキョロと見渡しながら木箱を手に取り床に箱を置き蓋をとる。何故だか緊張で心臓がバクバクと鼓動していた。ふぅと深呼吸をしてから布を外し、夜空のような綺麗な手持ちへと手を伸ばす。
しっくりとくる持ち手、白く透き通った傾らかな全体な指揮棒に見入っていた色川。
「指揮棒というか魔法の杖みたいだな」
そう言うと立ち上がりまた辺りを見渡してから目を閉じ演奏の場をイメージし、両手を頭上へ振り上げピタリと止まり頭の中で目の前に木下を初めとした演奏者達がいることをイメージし全員の顔を見渡す。
演奏の初めは水が流れるような清らかなクラリネットから……そう想像してから色川は指揮棒を振り始めた。実際は狭い楽器を置くための物置部屋、でも目を閉じた色川の前に広がっているのは仲間達の演奏している風景。田宮と目を合わせアイコンタクトを取り美しい音色を空気にすべらせる、そこに続くように他の楽器も入ってくる。そして静かに待っていたトランペットのパート、清らかなイメージから逆転、リズミカルな曲調へと変化する大切なところ。何度も音吹先生に怒られているところだ。
頭の中で木下をイメージし、目を合わせ”次の拍子から明るくリズミカルな音を“と念を送るように……頭の中で木下がトランペットへ息を吹きかけたと同時に
~~♪
「!!?」
実際の耳にもトランペットのリズミカルな音が聞こえた。頭の中でのイメージなだけのはずの音が現実で聞こえたのだ。
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