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それに魔法は物と接触して使うものでしょ。
全員と話すなんて物凄く疲れます』
などと言う。
私は物扱いか、謝罪はないのかと思うルコリー。
ますます不愉快になる。
無機物に触れて魔法を発動させるこの世界で、
サユのような身体に働きかける魔法はイレギュラーでレアな存在である。
イレギュラーとはいえ、触れていないと会話が出来ないようだ。
『とにかく私の話を聞いて。急を要するのです』
強く掴まれていた左手をするりと抜いて、逆にルコリーの手を握る。
サユがぐっと顔を近づける。
ほのかに石鹸の香りがする。朝に湯浴みでもする習慣があるのだろうか。
「な、なによ!?」
家では専属メイドに育てられ、学院では「バーキン様」と敬われているルコリーに
こんな接近して話をしようとする者はいない。
無礼である、と言いたいところ。
よく考えてみれば、手から体に話かけているので顔を近づける必要もないし、
相手は目隠しをしているのでどこに焦点をあてて見ればいいのかわからない。
逆に目隠しに圧倒されそうだ。
とりあえず、口を見る。
硬く結ばれているが小さくて可愛い口だな、などと考える。
先程までのイライラはどこかに引っ込んだようだ。
『あなたのお父様が亡くなられました』
「え!?」
『自殺か他殺かハッキリしませんが、他殺の可能性が高いです。
お父様につき従ってられたあなたのお兄様、
ヒースフレア=バーキンさんも行方不明です』
「ええええええ!おおおお兄様が、お兄様までっっ!!」
父親より、兄の行方のほうが反応が大きいルコリー。
意外に思うものの、血縁者や親類のいないサユにはそれが普通かどうかわからない。
サユには兄のように慕っていた人がいた事があるので、そんなものかなとも思う。
『バーキン家は本家があるのはご存知ですか?
お父様の生前の遺書により、お兄様とあなたが財産を2分する事が決まっていますが、
その2人が実家にいない状態なので、本家が財産の凍結を行いました。
30日後にあなたの実家で相続会議が開かれます。
その時までにあなたは実家に戻らなければいけません』
そこまで一気に話したサユが顔を離す。
『私は貴女の実家のあるタウチット城国までのボディガードとして雇われました。
一刻も早くこのイェンセン城国を発ち、タウチットへ向かう事をお勧めします』
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