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ルコリーは曇りガラスの戸を開けた。
このガラスも脆くて溶解温度の低い、透明度のある「グラス鉱石」なるものを、
職人が魔法で硬度を上げて板ガラスにしたものである。
不純物が多いため透明なガラスは作れないが、採光はちゃんと出来ている。
砂を溶かして透明なガラスを造る技術が発明されるのはずっと後の時代だ。
それぐらいこの世界の文明は、魔法に依存している。
「はぁ~~」
鬼のツノのように盛りあげた左右二つのシニヨン、
残りを小さな縦ロールにしたクセのあるピンクの髪と、
勝気な瞳を持った少女が溜め息をついて、窓枠にひじを突く。
天気が良くて、眺めが良好だ。
2階にある教室からはイェンセンの色んな形をした家々が一望できる。
それは普通とは違う変な形の壺や瓶の収集家のコレクションを、
野に並べたかのような光景だった。
ルコリーの実家もこの学校のように丘の上に建てられているので、
この景色を見ると故郷を思い出す。
イェンセン城国の富の象徴、「ガラスの城」が視界の端にあって目障りだが。
サユと中庭で話をしてちょうど一日経った昼休み。
「ど、どうなされましたかバーキン様」
「サユさんと何かあったのですか?」
バーディとマキナが心配して声をかけてくる。
「ああ、何でもありませんわ。
2人とも先に寮へ帰って頂いてよろしくてよ」
ルコリーは硬い笑顔で応対する。
何かまだ言い足りなそうにしながらも教室を去る2人を笑顔のまま見送る。
ルコリーは子分を作ったわけでも、そのつもりもない。
気が付いたらいつの間にか2人が後ろについて回っていた。
ルコリーが来る前、2人はよくいじめられていたと聞く。
そんな事より、考える。
お父様が亡くなったという事を。
お爺様の代で分家となったバーキン家を、本家をしのぐ富豪にのし上げたのはお父様だ。
どんな手を使ったのかは知らないルコリーだが。
遺産目当てで殺害したとなると、本家の人間か、お父様の弟の叔父様か。
だが本家は財産の凍結を行い、相続会議を開くという実に紳士的な動きを見せた。
本家とはいえ財産の凍結は越権行為にも思えるが、バーキン家の血筋の者が家にいない以上、トラブルを避ける最善の策であるように思う。
となれば、一番あやしいのは叔父様ということになる。
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