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叔父様…遠い昔に一度会った事があるが、スマートで厳しいだけのお父様と違い、
小太りで優しそうでとても人を、ましてや実の兄を殺害するような方には見えなかった。
厳しいお父様。
家にいても私に近づこうともしなかったお父様。
ルコリーとは歳が離れていたお兄様をいつも連れて歩いて、
お兄様を厳しく叱り付けるお父様。
サユからお父様の死を聞いた時は驚いたが、それほど衝撃は受けなかった。
だが、お兄様が。
あの優しいお兄様が。
庭で一人で遊んでいると、忙しい時間の合間に一緒に遊んで下さったお兄様。
ご近所を歩けばご婦人方が、家にいればメイド達がいつも噂話になるほどのイケメンなお兄様。
頭が良くて15歳の時から、お父様に教わりながら仕事を補佐してきたお兄様。
3年前に執事からアイマリース女学院に行くように言われ、数えれば4年も会ってないお兄様が。
行方不明?まさかお父様と一緒の事に?
いつも持ち歩いているペンを無意識に玩び、考えるルコリー。
お父様や遺産の事はルコリーにとってはあまり関心がなかった。
しかしなんとなく、いつも着ない黒い下着にした。
少しでも喪に服す、という意味で。
黒い制服がない以上、ほんの気持ちだけでもというつもりで。
ただ、お兄様が無事だという知らせが、使者が来てほしかった。
いや、無事なら使者も何も来ないはずである。
馬車の音がする度に、複雑な思いでルコリーは正門を見る。
「ひっ」
突然、肩に手をかけられ飛び上がるルコリー。
2つの胸の膨らみも、大きく上下する。
全く人が来た気配が無かったのに。
『そこは私の席のはずですが』
右側に小さな三つ編みのある黒髪のボブ、
目隠しと白杖を持った少女がルコリーの肩に手を置いている。
肩に置いた手を通して、サユが魔法で話しかけてきた。
「いーじゃない。どうせ朝からいなかったんだし。
それより中庭で何してるのよ」
ルコリーは、今日初めてサユと顔を合わせる。
目隠しが昨日と違うようだ。
今日は端に植物のツルが延びている刺繍が施されている。
『戦う事になった時の整地と採寸』
「戦う、って本当に貴女が戦うつもりなの?
あと、中庭をウロウロして皆のいい笑いものになってるんだけど」
意地悪に笑って返すルコリー。
朝からサユは中庭を歩き回り、
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