第27楽章~月と太陽の二重奏を~

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「ミュア…」 アレンは、一瞬呆気に取られた顔をしたが、すぐにフッと笑みを浮かべる。 「小さなミュアに、背負えますかねぇ」 「物理な意味で言ってないわ! てか皆チビチビ言うけど、私150はあるんだからね!?」  犬歯を剥きながら、そう言い返すと、アレンが笑った。 私も、つられて笑い声を漏らす。 「……アレン」 「? なんですか?」 ぎゅ。 アレンに、抱きついた。 ピッタリ身体をくっつける。 「……え? えぇええ!?」 驚きの声を上げるアレンを完全に無視して、彼の胴体に両腕を巻いた。 「ミュ、ミュア?!」 「静かにしてて」 「…? はい…」 どくん…どくん。 アレンの胸板に耳を押し当て、心臓の鼓動を確かめる。 動いている。体温も感じる。 「…良かった。やっと安心できた」 「…なら、良かったです」 微笑んで、アレンは私の背中に右腕を回した。 どくん…どくん。 アレンの心音…ちょっと速い気がする。 ドキドキしてくれてるのかな? もしそうだったら、嬉しい。 最愛の人に抱きしめられている幸福感の中──ソッと、瞼を閉じかけた。 刹那、バサバサバサ……と、書類が床に落ちる音で現実に戻される。 「「……え?」」 私のアレンのセリフが重なる。 私たちの視線の先には、床に散らばったファイルの数々。 と、こちらを見て微動だにしない蝋花。 「「「……………」」」 抱き合う私たちを目にして、蝋花は開口一番、顔を真っ赤にして叫んだ。 「す、ススススミマセンでした!! 私、お二人が…その…そういう関係だって事、知らなくてっ、あの、本当にごめんなさい──っ!!!」 一気にまくし立てた蝋花は、嵐のごとくその場を後にした。 床に散らばった、ファイルを放っておいて。 「……ミュア、なんか僕たちとんでもない誤解を与えたような気がするんですが…」 「…いいんじゃない。そういうことにしておきましょ」 ふふっ、とおかしそうに笑う私にアレンも苦笑で応じたのだった。
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