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彼女は白くキメ細やかな自分の肌に、ほっそりとした指を這わせた。
溜息が漏れそうなお淑やかさで、彼女は憂げに窓の外を見た。
誰がこの場面を見て想像するだろう。
今まさに、この場が、窓一枚を隔てて争いの渦中にあるということを。
悲鳴をあげることも震え騒ぐこともなく、令嬢にあるまじき冷静さでセルジュは周囲を見遣った。
見遣る、といってもセルジュの瞳は伏せられたままで実際に見ている訳ではないのだろう。
先ず、馬車の中にはセルジュしかいない。この一行の中で非戦闘員はセルジュのみなのだ。そしてセルジュの乗る馬車を守る様に立つのは公爵家お抱えの騎士だ。重量感のある鎧を身に纏い、槍の研ぎ澄まされた鉾先を相手に向けて構えている。
次にその先、敵と交戦中の公爵家が雇った傭兵の男達。しかしその人数さは圧倒的に不利で、雇われということもあって早々に離脱する事を考えている様に見える。
此処に至るまで、つまり敵がセルジュの乗る馬車を追い始めたあたりから道を外れ交戦するに至るまでで、実際二人が逃げている。
本来なら公爵家の人間を放って逃げるなどあり得ない。だけど此処にいる傭兵達が信頼をモットーとする正規のギルドのものではないのだから仕方がない。
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