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『……めでとうございます!』
これで何度目だろうか。食堂のテレビは先ほどから、勝山清五郎が受賞したという同じニュースばかり映っている。デジャブなんかじゃなくて、確実に同じものだ。勝山、CM、勝山、CM、勝山。全く嫌になる。何度放送されようと結果は変わらないのだから、一回でいいじゃないか。
「お待たせしました」と俺の前にはカキフライ定食が出された。それと同時に、目の前の席にドカッと誰かが、勢いよく座ってきた。お昼時はもう終わっていて、他にも席があるのに何故ここに?相手の顔を見てみるが知らない男だ。まぁ至って普通の会社員のようだし、気にせず放っておこう。何よりもカキフライだ。
「いやーこの人すごいですね」
放っておこうしたのに、男は声を掛けて来る。無視だ無視。
「いやだなぁ、無視しないでくださいよ」
「はぁ」やっぱりめんどくさいやつだったか。くそ!
「勝山清五郎ですよ。先ほどからのニュースの彼です。すごいなー」
「すごいですよね」と一応相槌はうっておく。
「知ってますかノーベル科学賞の最年少ですよ!!たまげたなー」
「……まぁ知ってますけど」
知っているのはニュースで取り上げられているからではない。恐らくは俺は誰よりも勝山を知っている。
「あなた、同じ大学の人ですよね?」
「ええまぁ、そうですけど」俺のことを知っていて話しかけて来たのか。記者とか、そういう類なのかもしれない。
「勝山さんはやはり天才なんでしょうかね?」
「まぁ、彼は天才と言われるだけのことはある人ですね」それどころではない。天才の中の天才だ。控えめに言って天才なのだ。
「やはりそうですか。努力でどうこうじゃあ、なさそうですもんね。努力、なんてそんな言葉はこれまで一度も口にしていない。いやー、いいなー天才は。羨ましい」あなたもそう思うでしょ、と言わんばかりにニヤニヤとこちらを見てくる。煩わしい。
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