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「おや、珍しいね。こんな世界にまともな人が来るなんて」
すぐ近くで発せられた静かな声で僕は目が覚めた。
「……えっ?ここは?……!」
びくっ、と僕は跳ね起きた。
寝起きのようにぼーっとしている頭をどうにか振り回して、僕はあたりを見渡した。
ふいに寝ぼけ眼にオレンジ色の光が突き刺さって何も見えなくなった。
思わず眼を閉じて掌で顔を抑えた。
頭がくらくらした。
「ちょっと君?大丈夫?」
先ほどの声が頭の上から問いかけてくる。
「大丈夫……です。ただちょっとまぶしくて、……あと少し頭も痛くて……」
しゃがみ込みながら僕はそれだけ答えた。
「ふうん?ちょっと具合が悪いみたいね。手を引いてあげるからこっちにおいで。日陰に座れる場所があるから」
そう言った声は優しく、悪意は感じられなかったから、僕はその声に従った。
なんだかとても懐かしい感じがした。
手を掲げると僕の手よりも少しほっそりとした、でもとても暖かい手が僕を立たせてどこかへエスコートしてくれた。
足の裏にアスファルトのしっかりした感触を感じた。
瞼の裏はまだ明滅を繰り返していて使い物にならなかったが、瞼越しに感じる光の量は先ほどよりだんだん少なくなっていくようだった。
「ここなら大丈夫かな。ちょっと座っていて。何か飲み物でも持ってきてあげるわ」
声の主は僕をどこかのベンチに座らせると、返事を待たないでザッ、ザッ、ザッと足音をたててどこかに駆け去ってしまった。
座って深呼吸を繰り返しているとだんだん頭も働き始めてきた。
ついでにオレンジ色の光に焼かれた目もようやく色を取り戻し始めた。
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