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目を開けてあたりを見渡すとそこは木造の屋根と囲いの付いたバス停のベンチだった。
ずいぶん昔に作られたのか木の板と板の間にあいたすき間から先ほどのオレンジ色の光が差し込んできていた。
さっきはわからなかったけど、どうやら今は夕方らしい。
鮮やかな夕日があたりの風景を一様な黄昏色に染めている。
なんだか懐かしい風景を見ているような感傷的な気分になった。
ふいに目の前の風景に影が落ちた。
顔を上げると、
「お待たせ。うん、もう眼は見れるようになったみたいね。体調のほうは大丈夫?」
先ほどの声の主がそこに立っていた。
背の高い女の人だった。
「あ、うん。だいぶ良くなりました」
「そう。よかった。いきなり倒れられたら困っちゃうからね。ここにはまともな病院はないんだもの。……まあいいわ。水でも飲んで」
そう言って女の人はベコベコにへこんだ金属製の水筒みたいなものを渡してきた。
「ありがとう」
受け取って口をつけると鉄の味がほのかにする水が喉に滑り込んできた。
あまりおいしくはなかったけど、ずいぶん喉が渇いていたからすぐに水筒は空になった。
一息ついて顔を上げると優しい声の主と目が合った。
この人は誰だろう?
* * * * *
女の人はターキッシュデライトと名乗った。
不思議な響きの長い名前だったけど、不思議とすぐに覚えられた。
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