6人が本棚に入れています
本棚に追加
ターキッシュデライトは背の高いウェイターのような風貌の女性だった。
男の人にも女の人にも見える中性的で、綺麗な人だと思った。
少し長い黒髪は頭の後ろでかっこよく一房にまとめられていて、まるで映画俳優みたいに見えた。
身体にぴったりな白いワイシャツに紺色のベスト、黒いスラックスの着こなしは一切の隙の無い、絵に描いたウェイターみたいだった。
とはいえ、背が高いといっても今の僕基準での話だ。
たぶん百七十センチくらいで、僕より頭一つ分くらい高いくらいだ。
僕も成長すればいつかは超えられるだろう。
僕はまだ成長期の子供なのだ。
大人の女性に身長が負けたからって特に思うことはない。
それに加えて特徴的なのは右目につけたモノクルだ。
古風な老紳士のように、もう体の一部になっているみたいにとても似合っている。
昔見たジブリアニメの猫の紳士がかけているような銀の金具とレンズだけのすっきりしたフォルムがかっこいい。
女の人に対してかっこいいと思うのは変かもしれないな、と思った。
「それで、君の名前は?」
ターキッシュデライトは僕に訊いてきた。
「僕の名前は……、あれ? なんだっけ?」
まるで漢字ドリルで覚えていない漢字の読みを聞かれたような感覚に戸惑った。
言い慣れたはずの自分の名前が、なんでかどうしても思い出せないのだ。
遠い昔に覚えた言葉みたいに頭に霧がかかってよくわからない。
答えを求めるようにターキッシュデライトを見たけど、彼女は首を傾げた。
当たり前だ。
僕と初めて会ったはずの彼女が僕の名前を知っているはずがない。
「忘れちゃったの?」
「うーん、そうみたい。どうしても思い出せないんだ。僕、頭おかしくなっちゃったかな……」
「ふうん。まあそういうこともあるんじゃないの? 健忘症っていうやつかもね」
「けんぼーしょー?」
「そう。たまに大事なことをうっかり忘れちゃう病気なの。でも大体そのうち思い出すから大丈夫よ」
「そっか。でもターキッシュデライト、僕の名前が分らないと呼ぶとき困っちゃうでしょ? どうしよう……」
「別に私は困らないけど、そうねぇー。じゃあ特別に私がつけてあげようか?」
最初のコメントを投稿しよう!