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「えっ? 名前って何個も持ってていいものなの?」
「うん? ああ、まあね。大人は多かれ少なかれいろいろな顔や名前を持っているんだよ。君はまだ子供だけど、本当の名前が見つかるまでの仮の名前があったほうがいいでしょう?」
「うん……」
僕はたくさんの名前を持つ人を知らないから少し不安だったけど、彼女の言うことはもっともだった。
それに二つ目の名前をもらえれば大人と同じだと思うとうれしくなった。
僕はこうやって少しずつ大人に近づいていくのだろう。
「さて、ね……。何て名前を付けようか」
僕と目線を合わせるためにしゃがんでいたターキッシュデライトは両手を上げて、おもむろに僕の頬をつまんで引っ張った。
「い、いはぃよ」
顔を横に延ばされながら僕は抗議の声を上げた。
「ごめんね」
手を放してターキッシュデライトは謝った。
「一体なに……?」
「いやぁ、柔らかそうでおいしそうだなって思って」
「僕はおいしくないよ」
「比喩、……例えだよ。まあいいわ。君の名前はロクムにしよう」
「ロクム?」
「そう。トルコのお菓子なんだけどカラフルで甘くてかわいいの。君はカラフルじゃないけど、君は今日からロクムよ」
「ロクム……、なんか不思議な感じの名前だね! よし、僕は今日からロクムだ! よろしく、ターキッシュデライト」
「こちらこそ、よろしくね。ロクム」
ターキッシュデライトはモノクルを付けた目を細めて優雅に笑った。
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