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B「さざんかに聞いたが、また、川島が来たらしいな」
さりげなく切り出すつもりが、思いの外、暗い声になる。
今しがた相対した女中の小娘は妙にうろたえた顔つきをしていた。
A「ええ」
妹は小憎らしいほど落ち着いて読みかけた本の栞を手に取る。
B「また、随分としゃれた物を寄越してくれた」
文机には血のように紅い花と雪のように白い花が半々ずつ組み合わせて飾られていた。
これは椿か?
あの男がこの前大学で読んでいたのは「椿姫」だったと思い出して、また苦々しくなる。
あんな生白い文学かぶれは妹に相応しくない!
A「山茶花(さざんか)ですわ」
相手はまるで訂正するように鋭く告げた。
B「さざんか?」
どうしてあの垢抜けない女中と同じ名の花を寄越すのだ。
A「あの方の心はそちらにあるんです」
窓の外で雪が降り積もっていく風景を見やると、妹は寂しく微笑んだ。(了)
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