第1章

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あっ、あとバイト代も上げてほしいな。 「年増でも良いの?」 「年増でも美女だからな。問題な・・・」 あれ?おかしい、な、なずなさんの声が、き、きこえてくる、よ? だ、だめだよ?男子の1人妄想遊びに勝手に入って来ちゃ。 背筋はピンと伸び、店内は静かなのに、脳内で警戒アラームが鳴り響く。 正面に広がる商品に、目をおろおろと配らせていると、ガチャ、と音がした。 首をギギギと傾け、甲冑様を見上げると、ガチャガチャ、っとこちらに歩み よってくる。 「あっ、あの、えっと」 「言い残すことはなぁ~い?」 甘くて誘惑的な抑揚の声で、カチャリと構えられる、どす黒いオーラが まとわりついている剣。 「あっ、あっ」 恐怖で言葉が続かない。 だ、だめだ!最後まであきらめちゃだめだ!この崖っぷちをチャンスに いかすんだ! 気持ちを奮い立たせ、なずなさんに告げる! 「す、すいませんでした!」 「悪即斬(あくそくざん)!!」 「いやあああああああ!!!!」 静かな店内は一遍し、悲惨な断末魔が響き渡った。 真っ二つになった毒キノコ椅子を、粗大ごみ置き場に運び終え、店内に戻ると なずなさんは甲冑を脱ぎ終えており、カウンターでノートパソコンをいじって いた。魚が反り返ったような形の椅子に座りながら。 見たことあるな・・・、あれだ、しゃちほこだ。何でこういうの仕入れるかね、買う人いんの?と訝し気に見ていると、スラっと伸びた足が目に付いた。 陶磁器のようにキレイな白さを、金風装飾のしゃちほこが、より引き立ててい る。 RECモードに切り替え眺めていたら、カチャリと剣に手を伸ばす音が 聴こえた。慌てて視線を上げる。 「いや!まって!なずなさん!もうよけれないから!」 剣を左側に構え、抜刀の構えをとるなずなさんを説得する。 「だいちゃん」 「は、はい」 「信じてるからね!」 腰を落とし抜刀せん勢い! 「信用しないで!?なぜ変な所に全信頼を置く!?」 後ろのドアノブに手をかけあたふたしていると、あはははは!!と 笑い声がした。 振り返りじとーっとした眼で見つめる。 「ごめんごめん、つい熱が入っちゃった」言葉とは裏腹に、いたずらを 心から楽しんで喜んでいる素直な笑顔だった。 ずるいよな。何だか満たされた気分になり、まあいっかと思った。 いや、やっぱ命の危機は勘弁してほしい。なずなさんは剣を甲冑に立てかけ
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