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スッと白い手が、コーヒーのかかった手を掴んだ。
ふわっとハンカチがかぶさり、「半分座らせて」となずなさんが体を押し当て
椅子の面積を半分確保する。
気が動転してしまい体が硬直する。コーヒーをふき取りながら
「ごめんね、ちょっとやりすぎちゃった」と申し訳なさそうに優しく話しかけ
てくれた。
「い、良いですよ、これくらい、今に始まった事じゃないですし」
「ふふ、うん、ありがと」なずなさんはそう言って俺の手をそっと握る。
また気が動転しそうになるが、そっと握り返す。ほのかに甘い香りとゆったり
と柔らかく感じる重さが心地良い。
ふと、こういうことはもう一生ないと思っていたような気がした。
でも今はそんな事どうでもいい。ずっとこのままでいたかった。
「あ~ぁ、早く人気者になって売れてくれないかな、あるふぉんすくん」
なずなさんのはりのある声が聴こえる。
「売るつもりだったんですか・・・」
「もちろん」
キラキラした瞳でなずなさんは続ける。
「ティータイムを素敵に演出してくれるし、悪者が来たときは身に着けて一緒に
立ち向かう、一石二鳥の目玉商品だからね!」
「いやいや、言葉の使い方間違ってますよ・・・」
「もう、また間違ってるって言う」
少し膨れた感じで言い返す顔はとてもかわいい。のろけている自分に気付き、
平静を装おうとして、ふと疑問に思ったことを口にした。
「なずなさん」
「ん?」
「その、あるふぉんすくん、売れていなくなっても大丈夫なんですか?」
「・・・大丈夫じゃないよ」ふっ、と笑みをこぼし答えた。
「だったら・・・ずっとそばに置い」
「ダメだよ」
最後まで聴かず、少し強めの語気で意思のこもった返事を返された。
お互いの手が離れた。
なずなさんの雰囲気が変わり、戸惑ってしまった。少しの沈黙後、またいつも
のはりのある声が聴こえる。
「商売人として!」
「え?商売人?」
「そう!商売人として、ずっといてほしいけど、売れてほしい。この
ジレンマを持つことが大切なのよ!きっと!」
グッとこぶしをにぎるなずなさん。
「は、はあ・・・」
いきなり商売人の心得っぽいものを宣言されあっけにとられる。
でもいつものなずなさんの雰囲気にほっとし、ふと視界に自分のコーヒーが
入る。そういや飲んでなかったな。手を伸ばし良い具合に冷めたコーヒーを
すする。うっ、・・・にが。
「・・・えい」
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