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すっと、コーヒーに角砂糖を2個放り込まれた。
「あっ!」と声を上げても中に入った瞬間に、すぐほろりと崩れ溶け、
二度ととりだすことはできない。
「はい」と優しい声でマドラーを手渡された。
渋々受け取り、ゆっくりとかき混ぜる。
少しマドラーを回す手が重く感じる。
黒く渦を巻く水面が異世界へと続く入口のように思えた。
「大樹」
優しい声に、はっとする。いつのまにか手が止まって、ぼーっとしていた。
なずなさんの顔を見ると、早く飲んで、と言いたげな、いたずらで楽しそ
うな視線を注がれる。
一瞬にして気持ちが軽くなった。自分の単純さに恥ずかしくなる。
しょうがないから飲みますよ、と目で伝えながらコーヒーを口に含む。
「どう??」
「・・・美味しい・・・かも」
勝手に砂糖を入れられた手前、素直に言いにくかった。
そんな俺の心理を見透かしているのか、なずなさんは笑いながら「我慢しちゃ
だめだよ?」と楽し気に語り掛けてくる。
「べ、別にそんな事ないです」そう言ってコーヒーをカウンターに置いた。
「え~?そうなの?」
「はい」
「でも美味しかったんだよね?」
「・・・はい」
「美味しい方が好き?」
「・・・はい」
「そっか~!じゃあ明日も2個入れて一緒に飲も!私も2個入れたコーヒー
、大好きだから」
「は、はい」
「明後日も、明々後日も!」
「えっ?ま、まあ、は、はい」
うんうん、と頷きながら、すっ、となずなさんが俺の耳元に顔を寄せた。
「私がいなくなってもだよ」
「・・・え?」
突然の言葉に気付き、振り向くと、両肩がふわっと温かくて白い両手に
包まれた。
優しくてほのかに香る甘さに心をくすぐられながら、重ね合わせる。
時間と意識の感覚が気持ちよくぼやけて、ゆっくり目を閉じた。
初めてのことなのに、なぜだろう、どこか懐かしく感じていた。ずっと
待ち望んでいた気がした。それに、もう一生・・・まただ、今も
これからも、そんなことどうでもいい!小さな不安を消すように、
なずなの体を両手でぎゅっと包み込む。
白い両手もそれに合わせるように俺を引き寄せた。
なめらかでやわらかい感触に身も心も委ねる。このままで良い、これか
らもずっと。両手に力を入れ、今よりもふみこもうとした時、口に涙が
溶け込んだ。両手の力が抜けていく。
なずな・・・?
ゆっくり開けた視界に、なずなの涙が通り過ぎていく。
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