一、人は最期に何を想う

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朝。 もう慣れた、というには早すぎるか。 騒がしい朝、静かな朝、繰り返しているとどちらも慣れたものとして感覚にインプットされるのだから、生物とは素晴らしい。  「N.n、起きた?」 朝を迎えて、孝が起きていることは今までになく、慣れていない私は、ぼんやりとした意識の中、僅かに驚いた。  「起きようか、と考えて居た所だ。」 負け惜しみを言って振り返ると、孝はソファに上半身を起こした状態でこちらを見ていた。  「・・・行ってみようか、孝の家に。」 あの頃の孝に接触する必要がある。 それは私も考えていた事で、孝もそう思うだろうということは、予想していた。 だからすんなり頷く。 「家はわかってるんだから、こないだもそうすれば良かったのかな。」 孝が呟くので、私はさぁ、と首を傾げた。 「行きたいと思った時、行けばいいんじゃないのか。」 そうすることには、きっと。 かなりの勇気が要るのだろうから。
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