初めての味

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初めてその人に会ったのは12月25日、世間一般ではクリスマスで世の中の男女が浮かれる日である。 だが俺は、そんなことは関係無しにバイトに勤しむ。 彼女がいる訳でもなければ、家族でクリスマスを過ごす訳でもない。 じゃあ働くしか無いじゃないか、と言った感じだった。けど、バイトが終わって家に帰っても姉貴と姉貴の彼氏が居るだけ。 行く宛も無く、ほんの気紛れに立ち寄った場所。 そこはカクテル専門店。 雰囲気が気になっただけで立ち寄った。 照明は少し暗めで、静かなクラシック音楽が店には流れている。 とりあえずバーカウンターへ行けば目の前に沢山の酒の種類が目に入る。 即目に入ったのは、定番のジンとウォッカ。 飲んだこと無いけど、名前ぐらいは知っている。 そんな酒を少し眺めていれば、カウンターを挟んだ先に一人の男性が立った。 シワ1つ無い制服に身を包み、ワックスで髪の毛を固めていて一見幼げな青年。 それでも黒髪であるせいか、清潔そうでとても優しそうな青年に見えた。 「いらっしゃいませ」 店の雰囲気に合うかのように、静かな声で青年は発した。 とりあえずペコリと頭を下げ青年を見る。 青年は俺の注文を待つかのように無言で佇む。 けれど俺が困ったようにしていれば、青年は優しく微笑み口を開いた。 「こういった店に来るのは初めてですか?」 「え…まぁ…はい」 変に見栄を張って嘘を着いても見抜かれるのが目に見えているので正直に答える。 そうすれば優しい声で「そうですか」と言葉を青年は発した。 良い声してるなぁ、癒される。 ふと名札に目を止める。 そこには、 椎名と名前があった。 へぇ~椎名って名前なんだ。 「お酒は飲まれますか?」 「いえ、余り。 こういう店に来ときながら、その、カクテルとかも全然分かんなくて」 「大丈夫ですよ。貴方のようなお客様は他にも沢山いらっしゃいますから」 俺を気遣ってか優しく椎名さんは話す。 そんな椎名さんに手慣れてるなぁと感想を抱きながら「よかった」と、安堵したように俺は言葉を溢した。 「それでしたら、あまり強いカクテルは控えた方が良いかもしれませんね。比較的飲みやすいカクテルですと、こちらの物とかになりますが」 椎名さんはメニューを俺に見せながら丁寧に説明してくれた。 でも、 全くもってカクテルの名前を見ても分からない。
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