距離感

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「あけましておめでとうございます」 街への駅で待ち合わせ、縁は今年初の椎名と顔を合わせる。 そして会えばもう一度、縁はそう口にした。 椎名は縁から目を逸らし、似たように口にする。 目を逸らされたことが少々気になる。 「私達、明るい時間に会うこと、基本無いですよね」 「…そういえば、そうですね…―― すみません、今日は自分の趣味を優先しちゃって」 どうしたんだろ。 やっぱり、なんか、よそよそしい。 「…椎名さん? なにか、ありました?」 俯きながら椎名が話すから、縁はそんな椎名の顔を覗き込むようにして話した。 そうしたら、椎名はビクッと、少しばかり驚き後ずさる。 この人は隠し事が出来るタイプではないらしい。 「…いえ、なにも……――」 「嘘だ」 「嘘じゃないです」 「じゃあ、なんで目逸らすんですか? 言いたいことあるなら、言ってくださいよ」 見れば見るほど解りやすい。 それが少し微笑ましく愛おしい。 「…だから、嘘なんて……」 「椎名さん。 それなら、俺の目を見て、言ってくれませんか?」 控えめに話す縁に対し、椎名は少しムッとしたように目を合わせ、なんとも言えぬ顔で縁を見つめる。 じーっ、と。 「…私達…付き合ってるんですよね?」 「一応?」 確認するかのように椎名は聞いてくる。 騒がしい駅の中にいても、ハッキリと聞こえてくる声で。 「付き合ってなきゃ、家に誘いませんよ」 縁がはにかむように話せば、椎名は少しだけ頬を赤らめそっぽを向いた。 そんな椎名の手を縁は取り、ニコリと笑う。 椎名が微笑み返すことは無かったが、手をしっかりと握り返してきた。
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