距離感

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「ここが、縁さんの家…――?」 玄関前で椎名は驚いたように口にした。 最寄の駅に着いた時点で、少し不安そうな表情ではあったのだが。 家の前には外灯が2本。 それに、日付が変わってしまった為に、道路の信号は黄色く点滅。 ほとんどの家の灯りも消えてしまっていた。 初めて来た土地がこんな田舎なら、驚くのも無理ないだろう。 縁はポケットから家の鍵を出し、カチャ、と鍵を開け、椎名を招き入れた。 「……本当に…お姉さんと二人暮らし、なんですね」 家族全員で住むには狭すぎる家だろう。 それを椎名も解ったのか、ぽそりと口にした。 縁は靴を脱ぎ、玄関からリビングまで真っ直ぐ伸びる道を歩き、明かりを着けた。 余り片付けられているとも言えない部屋だが。 何年も住んできた家だ。 「いつから、お姉さんと暮らしてるんですか?」 「んー…小学生の頃には一緒、だったかなぁ」 縁はソファに椎名を座らせて、冷蔵庫からお茶を出す。食器棚から二人の分のグラスを取り、椎名の隣にへと腰を下ろした。 「…ご両親は?」 「昔、死んだ。 じゃなきゃ、姉貴と二人暮らしなんてしないです」 こぽこぽと、グラスにお茶を注ぎ縁は椎名にへと出す。 ソファにどっと体を預け、縁は天井を仰ぐ。 「…別に気にすることじゃないですよ。 もう慣れましたし、両親のことなんて覚えてませんから」 縁は本当に気にしてなどいなかった。 だから、そう笑って話したのだが、椎名はやけに寂し気で悲し気な表情を浮かべていた。 椎名がこれでは、縁の調子も狂うというもの。 「なんで椎名さんがそんな顔するんですか」 「だって……そんなの悲しいなって。 縁さんの家庭事情に比べたら、私はまだマシなんだなって」 「………こんなの聞くのもアレなんですけど、椎名さんのご両親は?」 「父親と、兄と私の三人暮らしです。 母親は昔、家を出ていきました。新しい男と一緒に」 それはそれで辛いと思う。 母親という温もりを知ってしまっているのだから。 俺はそっちの方が辛い。 「でも、嫌いなんです。 母親も父親のことも。だから私、家を出て…一人で暮らして、ここに今いる」 家庭事情なんて人それぞれ。 縁が首を出して良い話でも無い。 だから、それ以上は触れずにおいた。
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