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「お、金木犀の香水か!良い匂いだな……って颯太?どうした?車に酔ったのか?」
父さんがビックリして声をかける。
気付けば僕は蹲り、嗚咽を漏らして泣いていた。
秋の日の何気ない僕の一言を、馨瑠さんは覚えていてくれた。
面倒だと一蹴した作業を、僕のためにしてくれた。
何ヶ月も前から僕に贈るために準備をしていたのだ。
一花一花金木犀を摘み、ピンセットでゴミを取り除いている姿を想像したら、胸が軋んで堪らなくなった。
涙に溺れてしまったように、胸が苦しい。
『君もいつか時限爆弾のように胸で暴発する香りを嗅ぐ時が来るよ』
あの時の彼女の言葉が、頭の中で響いている。
僕は馨瑠さんという魔女に呪いをプレゼントされたのだ。
季節が巡って街で金木犀の香りを嗅ぐ度、僕の胸に埋め込まれたタイムカプセルが鮮烈に爆ぜる。
馨瑠さんと過ごした日々にタイムスリップするのだ。何度も、何度も。
きっとそれは一生治らない不治の病なのだろう。
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