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引越し当日の朝は、寂しいほどに空は高く晴れていた。
引越しと言っても男子大学生の一人暮らしだ。
そんなに持っていく物は多くない。
洋服や少しの荷物くらいだったので、宅急便で良いと言ったのだけれど、どうしても一緒に行きたいと言う父さんに押し切られて、軽トラで引越しをする事になった。
荷造りをして少し寂しくなった自分の部屋を見ると、改めて家を出るのだと実感した。
「颯太、そろそろ出発しようか」
僕の肩に手を置き父さんが言った。
「……うん」
名残惜しいけど、もう出発の時間だ。
玄関には寂しそうな顔をした母さんが立っている。
「着いたら連絡してね。困った事や悩んだ事があったらいつでも電話頂戴ね。それから……」
母さんは涙ぐみながら僕の頬を撫でる。
その指の温もりが今はなんだか切ない。
「母さん、今生の別れじゃないんだ。心配なのは分かるけど、あまり悲しむと颯太も辛いよ」
父さんは気丈に振舞いながら母さんを諭す。
「そうね、明るく送り出さないとよね」
ニッコリと笑うと僕に紙袋を渡した。
「おにぎり、途中でお父さんと食べて。颯太の好きな梅と昆布だよ」
「ありがとう」
その気遣いが嬉しくて僕は泣きそうになる。
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