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「だけどさ、乱暴されなくて本当に良かったね。女性の夜道の一人歩きは怖いからね」  とにこやかに笑みつつサラリとした口調で同僚は言うが、実はわたしは襲われている。  血を流しつつ呻くわたしの姿を目の当たりにして急に怖くなったか、レイプ未遂犯が逃げ出しただけだ。  挿入されたかどうかまでは救急隊員にも医者にもわからないらしい。  だが傷害且つレイプ未遂犯の精液がわたしの皮膚や服に付いたり、辺りに飛散した事実はないことが確認されている。  よって入れてすぐ抜いたのか、それとも最初から勃ちさえしなかったのか、それ以外ということだろう。  救急隊員に発見されたとき、わたしはショーツを履いていなかったという。  一メートルくらい先の地面に落ちていたらしい。  更に言えば、一旦は捲くられたはずのスカートが元に戻されていたところから推測すると犯人は臆病者で出来心だったのかもしれない。  もちろんそれで犯人を赦せるわけではないが。 「そうね」  とわたしはフニャフニャ語で応える。  顎の骨は大丈夫だったが、歯を二本折ったのでフニャフニャ語は暫く続くだろう。  熱を測りに看護婦が四人部屋のわたしのいるベッドの前まで来たのをきっかけに、 「じゃあ、今日は帰るから」  と言い、同僚が椅子から立ち上がる。 「皆には元気そうだったと伝えておくから」 「フニャニャフニャ」  とわたしが応える。  それから心で、ちゃんとナースステーションに寄ってわたしの現在情報を入手してから帰るんだよマヌケ、と思うが疲れて寝た振りをする。  ついで、わたしが住まうアパートの近くでもないあの公園にわたしが何故いたかを問わないのは馬鹿なのか、それとも同僚なりの気遣いなのかと無駄に悩む。
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