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女には男に対する未練がないと言う。
ある場合でも薄いと言う。
それが一般常識なのか、違うのか、わたしにはわからないが、わたしは違う。
それが恋の数が少ないことに由来するのか、そうではないのか、それさえ不明だ。
結局どちらからも告白をせずに友だち関係を続けた友人がいる。
同窓会などで会えば今でも友人だが、もう半分恋人には戻れないだろう。
彼が未だに独身だったら可能性はあるが、結婚して子供までいるのではどうしようもない。
更に彼の妻が双方の知り合いと来ては付け入る隙がないだろう。
今更残念だったなとは思わない。
単に心が疼くだけだ。
心が疼けば種々の思い出が目の裏を過ぎる。
夜、公園、電車、彼の部屋、文化祭、握った手。
キスくらいはしておけば良かったとは思うがハグはしたんだ。
吃驚したように思い出す。
当時二人が受けたのは違う大学だったが、合格発表の日時がずれていたので、それぞれの発表を一緒に見に行く。
彼の方が先に合格が決まり、次にわたしの番が来て確認すると嬉しいことに受かっていてハグされる。
いや、わたしの方からハグをしたんだ。
後にも先にも、アレだけ自然だったハグはない。
だが、その後すぐに気まずくなって帰りの電車に乗り、ターミナル駅で別れている。
それで縁が切れたわけではないが、今生の別れに近かったようだ。
彼と、後に彼の妻となったクラスメートとの再会については聞いていない。
噂は流れるが、それは噂だ。
高校生だった頃、彼がわたしに気があったのは事実だと思う。
けれども同時に彼が彼女にも気があったというだけのこと。
わたしだって当時何人もの相手に恋をしている。
正確には憧れていただけだが、お互い様だ。
だから、わたしに彼を責める気は毛頭ない。
ただ時折、ああ、惜しかったな、と懐かしく思い出すだけだ。
晩生で、ついでに臆病なのでセックスを知ったのは二十歳を半分も過ぎてからだ。
一浪して入った大学時代にはついに出来なくて焦りもあったが諦めも早い。
進む大学を間違えたようで後に残る友人もなく、大学を嫌ったことから殆ど意地でレベルが上の国立大学院に進むが、やはり肌が合わずに修士課程で勉学を終え、就職する。
当時は頭が良かったのだろう。
大手ではないが理系のメーカーにすぐに就職が決まり、以来そこに居続ける。
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