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 けれどもわたしは、それが相手との別れに繋がるとは考えもしない。  会う機会が極端に減るだけだろう、と思っただけだ。  それで色々と大変になるね、と相手に言うと、いい機会だから松原さんとは終わりにしよう、と切り出される。  はあ、と意味がわからずわたしがポカンとした顔をすると、きみの五年を奪って悪かったよ、と不倫相手が真剣に言う。  それで、そうか、わたしは三十歳になったのか、三十女が何時までも分別を知らなくては仕方がないな、と感じてしまう。  だから、わかりました、お別れしましょう、とわたしが応えてすべてが終わる。  ドラマではないので最後のセックスが特に良かったという事実もない。  そもそもわたしと相手とのカラダの相性がとりわけ良かったわけではないのだ。  後に会社の知り合いから聞いたところでは、それからちょっとした修羅場があったらしい。  わたしとは上手く別れた相手だが、彼にはわたしと同時期に付き合っていた他の不倫女性が何人もいて、そのうちの一人が妻にバレてしまったのだ。  結局離婚という事態には至らなかったが、おそらく彼はこの先も似たような問題を起こすだろうとわたしは感じる。  それはさておき、いつか泥臭い空気を互いに感じなくなる時が来たら、わたしは自分の処女の簒奪者に訊ねてみたい。  彼の好みとも思えない地味なわたしを何故選んだのかという、その理由を。  わたしには相手の答の予想があるが、それが正しいかどうか確認してみたいのだ。
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