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「ちゃんと報せなきゃ、ダメじゃないの」  とわたしの傍らで母が言う。 「こんなに大怪我をして。命が助かったのだからまだいいけど、心配するじゃないの」 「心配されても治りが早くなるわけじゃないし」 「そんなこと言うもんじゃないわ」 「傷とかが目立たなくなってから連絡するつもりだったのよ」 「それにしても惨いわね。突き飛ばされたんだって」 「そう」 「ツイていないのね。犯人もわからないって」 「だって見ていないもの」 「気配くらいは感じたでしょう」 「気がつく前に突き飛ばされたのよ」 「どうにかならなかったのかねえ」 「たぶん無理じゃない」 「そうなの。まあ、元気そうでなによりだけど」  わたしのフニャフニャ語は経時的に幾らか改善しているが、それでも他人が聞けば未だにフニャフニャ語だろう。  おそらく身内だから聞き取れるのだ。  それも母だから尚更か。 「母親の幼児に対する言葉の理解ってすごいらしいね。同じウマウマでもご飯が美味しいだったり、動物の方の馬だったり、それ以外の意味だったり、聞き分けるから。赤ん坊の頃から喃語を聞いているからかしら」 「さあてね。でも普通は聞けばわかるでしょ。アンタの場合は女の子なのにお爺ちゃんの影響なのか車が好きでブーブーが自家用車でウーウーが消防車」 「それなら普通じゃないの」 「でも救急車はピカピカ光るランプが怖かったのか、町で見かけると泣き出して」 「パトランプの色は赤いけど、外層のプラスチック部分から透ける色が黄色くて怖かったんだよ」 「ヘンな子。パトカーだって同じでしょう」 「……とは思うけど、わからない」 「ところで梨食べる。アンタの好物だから買って来たのよ」 「ありがとう。でも口の中が痛くて」 「そうなの。そうよねえ。じゃ、止めとく」 「小さく切ってくれるなら試すわ」 「そう」  それから母は自分の後ろに所在なげに立っている妹の智美に振り向かずに問いかける。 「アンタも食べる」 「お姉ちゃんが終わってからでいいよ」 「こっちは大した量が食べられないから、残りはそっちで片付けてよ」とわたし。 「ゴミ袋は」と母。 「ベッドの柵に吊るしてあるコンビニの袋を使って」とわたし。 「ああ、これね」と母。
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