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 顔に感触がある。  感触は冷んやりとしている。  それは湿った布のようではない。  濡れたガーゼのようでもない。  直接触れた雪のようでもない。  硬い氷のようでもない。  柔らかい手の感じがする。  が、それにしては冷たさ過ぎないか。  けれども凍傷になりそうな感覚はない。  冷えてはいるが、優しいのだ。  そう思うわたしの身体は仰向けだろうか。  うつぶせではないとは思うがはっきりしない。  座椅子にずれて背凭れている程度に角度を感じる。  それならば顔も斜め上を向いているはずだ。  目が開かない。  ……というか、目が開くというという感覚を忘れている。  が、そう思った途端に硬直解除。  薄目を開ける。  吃驚だ。  驚いてしまう。   不思議と怖いとは思わない。  魚なのだろうか。  それとも単なる水の精か。  色が薄銀なのは魚っぽいが、わたしの脳がわたしの記憶をサルベージして一番似た形状をわたしに送り返しただけかもしれない。  けれども手もあれば足もある。  だから魚とは程遠い。  ……ということは足さえなければ人魚かというと、それとも違う。  ステロタイプ化すれば上半身が魚で下半身が人間の、あのマグリッドの逆人魚に行き着くのだろうが、それとも違うか。  顔の形がもう少し膨よかで、画ではないので肉感があり、よりヒトに近いような気がするのだ。  ただし顔に表情はない。  全体のバランスのせいなのか、薄っすらと笑っている印象はあるが。  でも、それが所謂薄ら笑いとは違い、犬の笑顔のように爽やかだ。  身近な異形、あるいはそれに近い存在を思わせる。  顔に表情がないのはわたしのことを訝っているからか。  ペタペタとわたしの顔に触って反応を窺っている。  薄い水掻きのようなものが揺れている。  そのイメージは例えば河童か。  賢い動物、あるいは満足している飼い犬のようにペタペタ触りを繰り返す。  だが知能が足りないのか、わたしの薄目に気づいた様子はない。  ここでパッチリと目を開けたら慌てふためくのだろうか。  それとも変わらず無表情か。
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