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 そう思って慌てて暗算をしてみるが、元よりそんなものは不得手なのだ。  理系と聞けば計算が速いだろうと思われることが多いが、そんなことはない。  接客商売をしている人間の方が、余程計算能力が高いだろう。 「わたしは暗算が得意ですね。子供の頃から。でも男の人といるときは、その能力を封印することもありますけど」 「えっ、どうして」 「人にもよるのでしょうが、自分が馬鹿にされた、見下されたと思う方もいらっしゃるので」 「男のくせに情けないな」 「いえ、計算が得意ではなくて、仕事ではいつもそれでペコペコと謝っているような人の場合、プライベートまでそんな思いをさせては申し訳ないですから」  そんな男とは付き合うなよ、とわたしは言わない。  だが彼女をそんな男から奪いたいとは真剣に願う。
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