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いや、でもほんのちょっとだよ。 胸張って見せられるような代物ではないんだもの。 服を捲るわけでも、触るわけでもないことを誓わせる。 それならいいかと思ってしまったのは、酔っ払いの思考である。 ほんの少しブラウスを引いて、襟元の隙間を大きくしてやると、猪瀬は目を輝かせて顔を近づけた。 「……近ッ!」 慌ててブラウスから手を離し、両手で猪瀬の顔面をどついた。 「痛ッ……あ、黎子さんッ!」 その拍子に、踏ん張りの効かない酔った体が反対方向へ傾く。 「もう! 気をつけてくださいよ」 みっともなく倒れる前に、猪瀬が抱き止めてくれた。 意外と太かった腕は、よく鍛えられていそうだ。 新入社員の頃、体調管理も仕事のうちだと私が言ったことを忠実に守り、きっと今も週に二日はジムに通っているのだろう。 私の体重くらいじゃ動じない立派な腕の筋肉にそぐわないヘラヘラした顔で、猪瀬は笑っていた。
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