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「なんで嬉しそうなの」
私の声は、だいぶ低かったと思う。
猪瀬ならすぐ分かるはずだった。
この声が出たら、要注意だと。
「だって黎子さん、可愛い」
あれ。
私、耳も働いてないのかな。
猪瀬は確かに可愛いが、こんなふうに女性を喜ばせようとする発言は聞いたことがない。
もちろん、私に言ったことも皆無だ。
「肌がピンク! 目がとろんとしてるし、クタっとしてる指先とか、もう! すっごく可愛いです!」
幻聴にしては、耳に吹き込まれる吐息がリアルだ。
猪瀬は間近で囁くように、でも熱を込めて言った。
猪瀬がこんなに力説するなんて、去年の企画会議の時以来じゃないかな。
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