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耳を猪瀬からさり気なく遠ざけるように向き直ると、奴は急に焦り出した。
黎子さん、黎子さんと呼ぶ声がうるさい。
頭に響くっての！
「黎子さん、泣かないで。どうしたんですか？」
私が泣く？
まさかと思ったけれど、重たい腕を動かして拭った頬は濡れていた。
あー、化粧が。
元々無残であろう酔っ払いの化粧が！
「泣いたら可愛いのが台無しですよ」
「可愛い？ 私が？」
猪瀬はコクコク頷くけれど、今さら私に気を遣う必要なんてないのに。
男勝りの勝気な性格で、可愛げのあることなんて言った試しがない。
男社会のこの会社で、舐められないようにと気を張って仕事してたら、私を女として見る人なんていなくなった。
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