第1章

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 神様が現れ、僕ら三人の前で  時間を巻き戻す力 人の心が読める力 他人を操れる力 どれか一つを与えようと言った。  アツシは時間を巻き戻す力を選んだ。  シンゴは他人を操れる力を選んだ。  僕は最後に残った人の心が読める力をもらうことにした。  しかし、やはり……  すぐに三人の中で争いが起きた。  アツシは考えた。時間を巻き戻す力を使う自分だけは、時間を巻き戻したとしても何もリセットされないのではないか。  神様みたいな力が使える者は俺だけでいいと彼は考えたのだ。  それは人の心が読める力を得た僕だからわかった。  アツシの恐ろしい考えは僕によってシンゴに暴露され、怒ったシンゴは他人を操る力でアツシを制しようとした。  このシンゴの考えも僕にはすぐに読めた。  二人は同時に叫んだ。  一時間前に時間を巻き戻す!  やめろ、俺の言うことを聞け!  アツシによって時間が巻き戻され始めたところに、シンゴの他人を操る強制力が働いた。  白い閃光と激しい耳鳴りが消え、僕は腕時計を見た。一時間前に戻っていた。  僕は人の心が読めるという力を覚えている。  彼らの心の中を読んでみた。  二人の心の中にはもう特別な力は宿っていなかった。  つまり、僕だけが力を持ったまま一時間前に戻れたわけだ。  彼らの力はぶつかり合うことで消滅してしまったに違いない。  時間が神様に会う以前まで巻き戻され、しかし、なぜ僕の力だけが消えていないのだろう。  二人の力がぶつかり合うところをまるで映画でも鑑賞するかのように他人事の目で見ていたせいなのかもしれない。  それから一時間経っても神様に出会うという奇跡は再現されなかった。  たぶん、僕はもう三つの願いの内の一つを手に入れてしまっているから、神様は出てこないのだ。  目の前でアツシとシンゴが笑い合っていた。  何か不愉快だな、こいつの顔見てると。マヌケな顔して笑えるぜ。  人の笑顔の裏に隠された汚い感情が読み取れてしまう。  人の心が読めるなんて恐ろしい力を手に入れてしまった僕であった。  しかし、僕は自分が得た力に絶望はしなかった。  アツシとシンゴ。先ほどまで彼らの心の中にあった汚い感情はすぐに消え、温かみのある感情がわき上がっていた。  こんなのでも友だちだからな。  人の心が変化していく。それを読み取るのは楽しい。
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