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小さな神社の娘として生を受け、代々母親から引き継いだ仕事がある、それは、元旦、二日、三日の間に神社にお参りに訪れる人々の願いの中から一つ
『美しい願い』を選び、神様に奉納する。
その為私はこの三日間、人の心が読めるのだ。
隣接する公園とあわせてもこの神社は小さい、大きさはせいぜい小学生がサッカーを練習する程で、普段なら道行く人々の目にとまることなくひっそりと佇んでいる。
でも今日に限っては違う、元旦ではこの神社でさえ夜中から人だかりが出来ている、路上には屋台も出るほどだ。
除夜の鐘が鳴りはじめると私は巫女となり境内に立つ。
始めてこの力を受け継いで、参拝者の人達の願いを聞き入った時は、あまりに膨大で一方的な願いに具合が悪くなって一時意識を失った程だ。
ほとんどの人が、金、健康、恋愛のどれか、もしくは複数を、ぶっきらぼうにお願いする、その中でも切実、ひたすらに思う気持ちにあてられると、こっちの精神がやられてしまう、母が言うには、ボリュームを絞る事ができると言うけれど、初心者の私には難しかった。
因みに参拝者の方々は大体願った後はスッキリして帰られるのだが、その思いのほとんどがそこで消えているから不思議だ、願いが成就するかしないかは、それこそ神のみぞ知るところなのだが。
私もバイトの巫女さん同様、御札や、御守りの売り子の手伝いをしているが、そうしていても、否応なしに『願い』は聴こえてくる。
まもなく深夜から12時間連続勤務になる、へたすると72時間大した休憩も取れずに働き続ける事になる、この三が日だけは神社ならどこも同じ、戦争だろう、まあ仕方の無い事だが。
参拝者の数が落ち着いた頃を見計らって、私は休憩を取ろうと思ったときだった。
『鳥がいなくなりませんように』
聴こえた願い、小さくも強く、切実な思いを感じた。
「変わった願い、誰だろう」
私は振り返り参拝口を見回した、気になったのだ、こんな切羽つまった願いは初めてだったから。
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