美しい願い

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「入って良い?」 また彼女は無言で頷いただけだった、心を読まなくても彼女の緊張が分かる。 玄関の門を押し開く、びっしりと覆ったシダ植物のため隙間ほどしか開かなかったが、あゆみちゃんが通った後、私もなんとか通れた。 シダ植物で塞がれた通路に一歩踏み込むと、鳩の死骸を見つけた、二匹、三匹、探せばもっといるかもしれない、そのどれもが外傷無く死んでいる、もしかすると鳥インフルエンザとか、病原菌が原因で死んだのではないのだろうかと、怪訝に思った。 その時である。 「カァーッ」 一羽のカラスだった、桜の木の下の方の枝に掴まり私達を待っていたかのように一声をあげると、その仲間なのだろうか、木の上の方からも無数にカラスの鳴き声が聴こえはじめた。 私は少し恐怖を感じて、あゆみちゃんの方を確かめた、彼女の心は何も動じず、カラスの鳴き声を浴びても動揺する事は無かった、それどころか、警戒するカラス達をあやす気持ちがあった。 不思議な事だが彼女は鳥と心を通わすことが出来るようだ。 「クワーッ」 突然、聴いたことの無い鳴き声が聴こえた、遠くまで聴こえそうなその甲高くて綺麗な声は家の中から聴こえた気がした。 「あ、鳥さん」 二人に緊張が走る、あゆみの言うその鳥が彼女に語りかけてきたのだ。 私は聞き耳をたてるように、彼女の心を探る、鳥は本当に意志疎通が出来るようだ、少なくても部外者の私を認識し、招いていると、あゆみの心を通じて分かった。 「うん、のりちゃん、鳥さんが会いたいって言っている」 やはりこの子は鳥と意志疎通している、驚きを隠せない私を気遣い、手を握って、庭の奥、勝手口にと私を導いてくれる。 桜の木をくぐり、屋敷の壁に沿って進むと、目前で鳩がポトリと落ちてきた。 「うわっ」っと驚くと、また一羽、羽ばたきもせず、この瞬間にこと切れたかのようにまた死骸が落ちてきた。 恐怖で気が動転しそうだったが、あゆみちゃんは不思議と平常心のまま落ち着いた様子だったので、なんとか持ちこたえられた。 屋敷の裏の勝手口に着いた。
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