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「この中」
あゆみはドアを開き、中に入った、空き家とはいえ勝手に入って大丈夫なのだろうかと、少し心配した。
家の中は庭とは違い、そんな荒れている様子は無かった、むしろついこの間まで人が生活していたと感じるほどだ。
六畳程のキッチンを通り抜け居間に立ち入る、年代を感じる旧い家屋、昔ながらの畳の部屋、その奥の床の間にそれは居た。
「クワーッアアア」
一声で身も心も竦んだ。
その大きな鳥は、野太く力強い爪で立派な白木の梁に掴まり、少しもバランスを崩さずに大きな双翼を広げた、挨拶代わりの威嚇を終えると、突き刺すような眼光で私達を見下ろしていた。
「た、鷹?」
後から知ったがイヌワシらしい、広げた翼は2メートル以上有るんじゃないだろうか、なぜこんな所に居るのだろうか?私は完全に度肝を抜かれ、思考がストップしてしまった。
「鳥さん、こんにちは、連れてきたよ」
あゆみちゃんのその言葉で私はやっと我に帰る、直ぐさま思考を読む、あゆみちゃんの心には恐怖、畏れは無かったので、私も少し安心した、鷲の心を読もうと試みたがダメだった、私は人以外の者の心は読めない。
「クワッカカカ」
鷲が鳴き出した、さっきの天を衝く鳴き声とは違い、低く緩急の有る声で、まるで歌を唄っている様に。
それをあゆみちゃんは熱心に聞き入っている、彼女の心を通して鷲の意思が私に伝わる。
《私達が去る前に人間に伝えたい事がある》
これはどういう事だろうか、驚愕する私の隣で、あゆみちゃんはまだ放心した様子で鷲の言葉を聞き入っている。
《神仏に精通しているその者は、私の意思を汲み取ってくれるだろう》
鳥が人のように話をしている、鷲はあゆみちゃんを通訳として私に何を伝えたいのだろうか。
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