第1章

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俺には、ある日突然目覚めた特殊能力がある。 誰が何のために授けたのかは解らないけれど、とりあえず悪の組織に改造を施された訳では無さそうなので、至って平和に過ごしている。 どんな特殊能力なのかと言うと、 『……大丈夫かな』 『何だ、このメンツ』 ……周りの人の、口には出さぬ声が聞こえてくるのだ。 『せめて班決めもっと自由だったらいいのに』 『どこでもいいから黙ってていいかな』 『ちょっと楽しみー!』 『どこでも一緒だろ、さっさと終わんねぇかな』 そして現在は、来月にある宿泊研修の話し合い中だ。 うちの高校では2泊3日の宿泊研修があり、1日目と3日目の日程は決められているけれど、2日目は班ごとの自由行動がある。 大体のルートは決まっているけれど、場合によっては結構楽しめるらしいから、嬉しそうにしている生徒も多い。 しかし楽しむためには、第1に班のメンバー、そして2番目に行き先が重要だ。 俺の入った班は、大人しそうな男女各1名、ヤンキー入ってる男子が1人。 そこに面倒見の良さそうな女子と、恐らく彼女と同じ部類の俺で合計5人だ。 最初の2人はいつものグループに人数の関係上入れなかったみたいだ。 そこに持て余し気味のが1人、先生によって追加。 様子を見かねて、まとめ役に自ら入った女子が朝日奈(あさひな)さん。 ……そしてそこで彼女とお近づきになろうと立候補したのが俺になります。あわよくばフラグ立てたい。 友達との班では人数が規定より多かったのもあるけれど、明るくていつもニコニコしている朝日奈さんに釣られて入ったこの班。 今、すでに後悔している。 なんせ聞こえている声では、楽しみにしているのが1人しかいない。他はネガティブだ。 ただ1人の例外は、恐らく朝日奈さんだろう。きっとそうに違いない。 耳から入ってくる音と同じ声質なら断定できたのだろうけれど、厄介な事にこの能力では声に変なフィルターがかけられていて、誰の声かは解らないようになっている。 プライバシー保護のためだろうか……って、なら最初から聞かせるなよ!
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