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「あ、美術館行く途中に遊歩道あるんだ」
3枚目のプリント裏の地図に気が付き、川瀬さんが言った。
動物かぁとさっき小さく呟いていたから、彼女も美術館が気になるらしい。
「じゃあそこ通って美術館にしよっか?」
『ダブルとか何考えてんだよくそめんどくせー』
甲高い声色に変えられているはずなのに、低い声になって聞こえてくる。
奴の不興を買おうと、俺は朝日奈さんの提案に乗る!
「俺もそれがいいな」
「じゃあ俺もそれでいいよ」
俺の発言に寺田もOKを出した。
「乙川君もいい?」
「…………」
返事が無いが否定は無い。
しかし面倒だと何度も呪いのように呟き続ける声が俺にだけは聞こえている。
「いいよな、乙川」
ここで朝日奈さんを困らせたり、がっかりさせたくはない。
「俺さ、うさぎ好きなんだよ。だから絶対行きたいと思ってて」
小さく載せられているポスターの画像はふっかふかの白うさぎだ。
動物好きをアピールしつつ、いいよな?とさらに念を押すように同意を求めると、小さく唸るような返事が返ってきた。
「……あぁ」
『ぃやったー!!!』
「じゃあ美術館コースで、提出しちゃうね」
2人の実際の声に挟まれながらはしゃぐ心の声。
そんなに嬉しいんだね、朝日奈さん!
班メンバーの名前が書かれた紙にコースを書き足し、先生へと持っていく彼女の後ろ姿を見ながら、俺は小さな達成感を覚えていた。
多少の不安は拭えないけれど、でも案外楽しめそうだ。
普段あまり絡んでいなくても朝日奈さんと川瀬さんはそれなりに仲がよさそうに見えるし、寺田は可も不可も無い。
後は乙川が大人しくしてくれさえいれば、万事OKだ。
彼は喧嘩っ早いらしく色々な噂がある。
どうか何も起こりませんように……と、祈ったのに。
放課後、教室から出た俺は誰かに腕を掴まれ人気の無い方へと連れていかれる。
「え、ちょ、何?!」
チッと舌打ちする以外は黙したまま歩を進めるのは乙川だった。
何だ?
面倒なコースに同意させたから怒ってんのか?
宿泊研修の前に、病院にご宿泊する目に合わせられるのか?!
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