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目が覚めた。
月曜の自宅、完璧だ。
しかし急がなければならない。
事故が起きるのは自分の出社時刻より前、隣の駅だ。
慌てて家を飛び出し、走る、走る、走る。
隣の駅まではそこまで遠くない、全力で走れば電車よりも早く着ける。
隣駅についた。
マツオの呼吸は何かの怪獣のように荒くなり、周囲の注目を集めている。
しかし、関係ない。
勢いよく改札を通り、当たりを見回すと、
向こう側のホームに学生の女の子が見えた。
間違いない。
階段を駆け上り駆け下り、全身が心臓であるかのように脈打つ。
女の子だ。
黄色い線ギリギリを歩いている。
その向こうに女の子を睨む男がいた。
まずい。
骨が折れ筋肉が裂け心臓が破裂してもいい。
マツオは、ただ女の子に向かって走った。
あと10歩。
あと5歩。
不審な男も近づく。
あと3歩。
あと2歩。
手を伸ばす。
あと1歩。
女の子の手をつかむと、強く引き寄せた。
代わりにマツオの体は勢い良く前に飛び出す。
不審な男の手が、マツオを突き飛ばした。
バランスを崩したマツオは線路内に転落した。
マツオの目には一瞬だけ、電車が見えた。
駅のホームに、叫ぶ泣く喚く人間の声。
マツオからは空が見えていた。
そして痛み。
針を差し込まれたような劇的な痛みと、
全身から何かが漏れ出ているような感覚。
マツオは、痛みに顔を歪め涙しながら、ぼんやり考えた。
生きててよかった、と。
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