黄色い線の内側

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マツオは、自宅のベッドで目覚めた。 やはり痛みはない、そして月曜。 失意の中、新聞に目を留めると、競馬の情報があった。 戻っているのであれば、当たる馬券は同じ、今日は大当たりが出る、マツオは考えた。 金があればもう少し楽しく生きられるのではないかと前向きに考えた時期もあった。 マツオは、貯金を下ろし、競馬場に向かい、人づてに聞いた当たり馬券に、全額を突っ込んだ。 もちろん当たった。 今までの人生で浴びたこと無い注目、配当金は見たことも無い金額になった。 競馬場を後にしたマツオは、しかし、と考えた。 お金があっても使い道を思いつかない。 住みたい家は無い、着たい服も無い、食べたい物もない。 助けたい相手もいない、貢ぎたい相手もいない。 金が0と1が並んだだけの算数に見えた。 マツオは、電車に飛び込んだ。 また、自宅のベッド。 マツオは、もはや自意識がなくなりかけるのを自覚しながら それでも出社しようと家を出た。 同じ日だから、同じアナウンスが聞こえた。 人身事故で電車が遅延している。 不意に、子どもが持っていたヒーローの人形を思い出した。 ひらめき。 マツオの目が意識を取り戻し、全身に血が巡るのを感じた。 戻れるのであれば、戻れるのであれば、 事故で死んでしまう人を救えるのではないか。 それは事故を知っている自分にしかできない。 ヒーローになれるかも、しれない。 マツオは、決意をもって黄色い線を蹴ると、 電車に飛び込んだ。
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