緋碧ノ娘

12/12
前へ
/12ページ
次へ
王の間で、冷たい国王の目が娘と王子を見下ろす。 捕らえに行った娘が城に居たことに驚いた心は見えたが、ソレ以外は未来で体験した時と変わらなかった。 王子が娘の前に立ち、王と言葉を交わすも、根本的な思想から異なっている為か、和解はできそうになかった。 王は実の息子である王子に、部下達に「処刑せよ」と命じると、王子の心には悲しみが過ぎる。 無理もない、実の父親なのだから…。 娘はソレを想うと、剣を構え、王子の前に立った。 驚く王子を手で制すると、娘は大きな声で言い放つ。 「国王! 貴方は女神──アカーナ神の言葉を忘れてしまった! 国が始まった時の、女神の言葉を!!」 娘の言葉に、国王は変わらず鼻であしらうように笑う。 娘はソレに、剣を構え、凛と静かで美しい歌声で歌を歌い始める。 ソレは大きく、美しく、まるで花が咲(ひら)くような歌声。 ──私は成すわ、私にしか出来ないコノ力で! 途端混乱する王の間。 兵士が兵士を捕らえ、兵士が国王を捕らえ、国王が兵士を捕らえだす。 混乱する声の溢れる中で、自由に動けるのは最早、娘と王子だけだった。 「コレが、“他人を操る力”…」 王子の驚く声が耳に聴こえた。 王と臣下は娘の力によって自らが自らを捕らえ、娘を捕らえようと走った部隊も、王子の部隊によって捕らえられた。 そうして王の企みは終(つい)え、王国には平穏と静けさが戻る。 * 今日もまた日が昇る。 柔らかな歌声が天へと上り、穏やかな空気があたりを包む。 王子が娘を見ると、娘は首を傾げ柔らかく微笑んだ。 人間の王子に惚れるも、アノ日、王子を失った日に、天界で悲しんでいた娘──アカーナシャル。 母──アカーナ神はソレを哀れに想い、時を巻き戻し、娘に特別な力を与えた。 けれどもソレは試練だったのだ。 ソノ力を使って、過去を変えられれば、願いは叶う…。 王子と笑い会える日が来る。 娘の口からそう聞いた王子。 驚きはあったものの、娘が愛しい人であることには変わらず、王子はいつものように娘を慈しみ、大切に想った。 そして後に王として即位してもソレは変わらず、王子は娘を王妃とし、同時に神殿の神聖な存在として崇めた。 国の始まりの女神──アカーナ神の可愛い可愛い可憐な愛娘。 “心を読む力”と“他人を操る力”と“時を巻き戻す力”を持った娘──アカーナシャル。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加