記憶に待つ

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「では、頑張ってくるのじゃぞ」 無言で頷いた彼。 その背には、村のみんながお金をかき集めて買った銅の剣が鈍く光る。 いつもと違って、マント付きの服に身を包んだ彼は、魔王を倒すべく、今日旅立つ。 別に、彼でなくてもいいのに……。 ちょっと雷の魔法とか回復魔法使えるからって、みんな期待し過ぎたよ。 私は、そんな危険な旅で名声を高めるより、ずっと村にいて、一緒に笑ってくれたらそれで良かったのに……。 旅立つ彼に激励を飛ばす村人を尻目に、私は村外れの祠に行った。 ーーどうか、どうか彼が無事で帰ってきますように。 両手を合わせ、ただ、ひたすらそれだけを祈った。 どれくらいそうしていただろうか。 ふと気付くと、背後に視線を感じた。 無愛想な顔をしつつも、どこか優しい不思議な目。 彼だった。 「なにやってんの!早く戻りなよ!」 彼に会えて嬉しい反面、今会いたくはなかった。 会えば、溢れそうな涙が堪えきれずに溢れてきそうで……。 「いや、お前の姿が見えなかったから探したんだ。 ……行ってくるよ。 必ず、帰るから」 短く告げた彼は、そのまま踵を返して村の広場に戻っていった。 追いかけたい! 追いかけて、後ろから抱き締めたい! けれど、そんなことは許されない。 今や、彼は私だけの存在じゃない。 ……待ってるから。 ここで、ずっと待ってるから。 私は、城のお姫さまみたいに綺麗でもないし、 神の遣いのような不思議な力で貴方を護ることも出来ない。 だから、せめて足手まといにならないように、この村で貴方の無事だけを祈ってます。 貴方はもう覚えていないかもしれない幼き日の約束。 それを胸に毎日を過ごします。 だから、もし、もし貴方が魔王を討伐して帰ってきたら、その時は私だけの貴方になってくれますか?
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