僕の願い

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これでよかったんだよ、母さん。 親父がどうなろうと自業自得だ。 けれど、母さんだけは守らなくては。 不幸だった母さんの幸せを取り戻させなくては。 僕はそれしか考えず、結婚直前の母さんの元へ旅立って行ったのだった――。 心残りは最後にお別れが言えなかったことだ。 どうか勇気を持って自分の幸せを探してほしい。 掠れゆく意識の中で僕は次第に自分の体が高速で時間の流れの中に溶けて吸いこまれていくのを感じていた。 ※ 「起きなさい。いい歳して親に起こしてもらうなんて恥ずかしいわよ」 ドアのノックと母さんのとがったアルトボイスで意識が戻った。 ――ここは僕の部屋?! 僕は自分のベッドにTシャツとトランクス一枚で寝ていた。 ギクッとして僕は鏡を見る。 いつもと変わらない僕が写っていた。 いままでのが夢だったとは思えない。 なんで僕はここにいるんだ。 これは、まさか…。 会社へ行くためスーツに着替えて部屋を出る。 ダイニングへ顔を出すと母さんが忙しく動き回ってキッチンで朝食を作り、父さん――西村さんが新聞を片手に僕を見た。 「おはよう。どうした、海人、顔色が悪いぞ」 「お兄ちゃん、具合が悪いなら会社休めば」 セーラー服姿の女の子がパンを片手に僕に振り返る。 どうやら妹らしい。 <勝った!> 僕は思わずガッツポーズをつくっていた。 僕は賭けに勝ったのだ。 時間を巻き戻す前に、両親が結婚しないなら、当然ながら、タイムパラドックスで自分の存在が消滅するのは覚悟していた。 けれど、賭けてみたかったのだ。 父親と自分に血のつながりがない可能性を。 DNA親子鑑定には約10万円近くかかる。 2万円からというのもあるが信用ができない。 髪の毛よりも口内の粘膜採取の方が費用は安くなるがそんなことできたものではない。 なぜ賭ける気になったのか。 母さんのある一言がきっかけだった。 幼少期、僕を始めて殴りつけた親父から僕をかばうように母さんが言ったのだ。 「私の子供を殴らないでよ!」 こいつは俺の子供でもあるんだ、と言った親父の台詞に母さんの体は固まったように動かなくなった。 子供ながらに妙な違和感をおぼえた。 年齢を経るにつれ、母親の顔に似ていく自分を変だとも思っていた。 父親に似たところがどこにもないからだ。
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